The Japanese Journal of Antibiotics
Vol.75 No.2 June 2022
◆原著
6歳未満児の肺炎例を対象とした原因微生物推定の新たな試み:
血液検査値を元にした「起炎微生物推定判別式」の構築
生方公子・岡田隆文・齊藤憲祐・岩田 敏
P.23-34, 2022
【目的】外来診療において迅速な血液検査ができる機器が普及して来ている。本研究では,得られた血液検査の結果から原因微生物を推定して抗菌薬を処方する際の判断に貢献し,かつ保護者に説明する際に役立つ「起炎微生物推定判別式」を構築することを目的とした。
【方法】判別式は,著者らが行った多施設研究で得られた6歳未満の小児肺炎例(n=682)の血液検査値,CRP値,年齢,および起炎微生物の結果を元に構築された。各検査項目は,それぞれのROC曲線からAUC,感度,特異度,閾値を求めた。それらの結果に基づいて,多重ロジスティクス回帰によるWBC,CRPおよび年齢の3項目を用いる「起炎微生物推定判別式」を構築した。判別式の妥当性の検証も行った。
【結果】構築された判別式はY1=3.45-4×WBC(cell/μL)+0.847×CRP(mg/dL)+0.610×年齢-6.849となった。判別式の結果は%として表現され,50%以上の場合は細菌感染と推定した。判別式の感度は88.5%,特異度は88.6%であった。偽陽性率は14.2%,偽陰性率は11.5%であった。偽陽性例ではWBCとCRPのどちらかが高値の例が多かった。マイコプラズマによる肺炎は,判別式ではその半数がウイルス性と判定されていた。妥当性の検証における誤差は10%前後におさまっていた。
【結論】判別式は,細菌感染であるのかあるいはウイルス感染であるのかの確率が %で表示されるため,理解しやすいものと結論された。また,感度と特異度がいずれも88%以上と高いことから,抗菌薬処方の際の判断,ならびに患児の保護者への説明に寄与することが期待される。
◆研究報告
成人のワクチン接種実態調査と接種時における双方向コミュニケーションの必要性
池田晶子・松本愼次・増田糸往里・清水直輝・丸山篤志・小林一司・岩崎人士・白崎仁久
P.35-44, 2022
欧州製薬団体連合会では,成人のワクチン接種時における医療従事者と被接種者との双方向コミュニケーションの重要性を考え,接種の現状及び接種時のコミュニケーションの実態についてアンケート調査を行った。その結果を踏まえ,医療従事者と被接種者間の理想的なコミュニケーションの在り方について検討し,Life Course Immunizationの普及を念頭に「ワクチン接種におけるコミュニケーションガイダンス」1)を作成した。